現実主義者の恋愛事情・王子を一時預かりします レイと綺麗
綺麗はすぐに、
こたつから這い出して、
台所の戸棚の下にしまってある、
大きなガラス瓶(梅酒定番の赤いふたの大びん)を抱えて来た。
こたつの上に置かれた梅酒は、
昨年のものだ。
琥珀色の液体に、
ピンポン玉ほどの丸い梅が
いっぱい浮いている。
「・・すごいですね。
密造酒ですか」
王子が目を丸くした。
「いや、いや、合法だし。
普通に家でつけるよ。毎年6月頃にね」
「この梅がまた、おいしいんだから。
食べてみて」
綺麗は、お玉で梅の実をいくつかすくい、お皿にのせた。
部屋中によい香りが広がる。
王子が梅の香りをかいでから、
一口かじった。
「おいしい・・
すごいプラムですね」
ピンポーン
デリバリーのピザが届いた。
「ねぇねぇ、
今日は人助けもしたし、
盛大にフェァウウェルパーティしよ。梅酒、飲み放題だよ」
綺麗はテンション高めで言った。
そう、契約より早く出て行くのだ。
だからこそ・・・
楽しくお別れしよう。
「パーティは・・いいですね」
王子は横で寝ている綺麗を見て、
いつものように微笑んだ。
「うん、うちの梅酒は自慢できるからね」
綺麗は起き上がり、
梅酒をマグカップに、お玉で
たっぷり注いだ。
「キレイさん、今日・・
すごいクールでした。
やっぱりあなたは特別な人だ」
王子は梅酒を飲み干すと、
考え深げに綺麗を見つめた。
「別に・・・・
普通だけどさ」
梅酒を堪能すると、
綺麗は寝っ転がった。
王子も同じように仰向けに寝た。
こたつの中で・・足が触れた。
沈黙・・・
王子が口を開いた。
「Un ange passe
天使が通りましたね」