現実主義者の恋愛事情・王子を一時預かりします  レイと綺麗
<梅の木の下のプロポーズ・エピローグ1>

あれから2か月経った。

「お母ちゃん、
夕飯の買い物、行ってくるわ」
そう声をかけて、
綺麗は、実家の玄関の引き戸を開けた。
まだ、お腹は目立ってはいない。
つわりが少しでてきている。

庭には梅の大木がある。
相当に古い木だ。
祖母の代からすでにあったらしい。

そう・・
この木の梅で、
梅酒を漬けるのも桐谷家のお約束だ。
今年は作り方を、教えてもらおうかな。

その時期には・・・
飲み頃になる時期には、
この家の4代目がいるはずだ。

綺麗は梅の大木を見上げた。

昭和の時代に作られた門は、
立て付けが悪い。
ギシギシギシ
何とか力を入れて、開けた時だった。

「キレイさん・・・!」
王子が門の前に立っていた。

綺麗の喉がひゅっと鳴った。
あの、長い指、大きな手で、
腕を掴まれた。

塀に追い詰められて、壁ドンされた。

「連絡もつかなくって・・
なんで・・」
王子の顔が赤く、目が真剣だ。

綺麗はうつむいた。
「恋愛遊びはしない。
ただそう思っただけ」

王子が下を向き、
綺麗の頭に自分の額をつけた。
「あなたは・・
ファミリーでしょ。
ホーム・・・スィートホーム」

綺麗はこの壁ドン状態をどう脱するか、考えていた。

「私は、今、一番
大切にしなくちゃならないものがあるから」
綺麗はうつむいて、
お腹をかばうように手を触れた。

「私・・・
妊娠しているから」

その爆弾発言に、空気が揺れた。

王子が額を離し、綺麗の顔を見つめた。
ヘイゼルの瞳が揺れている。
綺麗は視線をそらして、
塀から出ている梅の枝を見ていた。

王子の手に力が入り、その声が震えた。
「僕が・・僕が・・
ダディになってはだめですか・・・」

その言葉に、
綺麗は立っていられず、
ずるずるとしゃがみこんだ。
それでも、何とか気力を振り絞って

「あのさぁ、父親になるってどんな事になるかわかっている?」
責任もあるし・・子育ても大変で・・」

王子は静かにうなずいた。
「ファミリーですよね・・
なりたいです」

もう・・だめだ・・
「ぐふっ・・う・・うっ」
子どものように、泣きじゃくってしまう。

王子がしゃがみこんでいる
綺麗の前に、片膝をついた。

目が伏せられ、心なしかまつげが震えている。
それから綺麗の片手を取り、
「あなたとの結婚を・・
望みます。
YES?それともNO?」

「・・・NOじゃないよ」
綺麗は赤い目で、
やっと王子を見上げた。
しゃくりあげながら、二重否定で答えた。

王子も鼻を赤くして、目が潤んでいた。

「レイさんの子どもだから、
すんごくかわいいと思うよ・・」

最終秘密兵器のさく裂に・・・

王子は、
もうそれ以上の言葉が出ずに、
綺麗を強く抱きしめた。

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