雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。

出張編

「脱げよ。今すぐ、全部」

 いきなり投げつけられた言葉に、息を呑む。

 普段は愛嬌があり可愛いと称される進藤の目が眇められると、とたんにその整った顔が冷淡に見えた。
 でも、私をまっすぐ見つめる目だけ熱い。
 ゾクッとしたのは寒気のせいだけではなかった。
 手足は冷え切って痛いほどなのに、進藤の瞳の熱がうつったように胸の奥が熱くなる。

「早く!」

 フリーズしてしまった私に苛立ったように進藤は急かした。
 
(脱ぐ……。そう脱ぐしかない。この状況では)

 覚悟を決めて、私は震える手をボタンにかけた。


         ☆ ☆ ☆

< 1 / 95 >

この作品をシェア

pagetop