雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
 私は中庭の一角に大量の雪を集め始めた。
 腕を広げて、ブルドーザーのように雪を四方からかき集める。
 あっという間に雪まみれだけど、動いているから、そんなに寒さは感じない。

「もしかして、かまくら作ろうとしてる?」

 ようやく雪を追い出したらしい進藤がまた寄ってきて、私の髪の雪を払い落とした。

「もしかしなくてもそうよ。一度作ってみたかったの」
「それなら、スコップがいるぞ?」
「そうなの?」
「運がいいな。俺はかまくら作りの名人だ!」
「へー」

 軽くスルーして、雪集めに戻ろうとすると、「いや、マジで!」と腕を掴まれた。
 進藤は金沢出身で小さい頃からよくかまくらを作っていたらしい。

(進藤に教えを請うのは、むちゃくちゃ腹立たしいけど、かまくらのためだ、仕方ない……)

 くぅううと苦渋の決断をして、進藤にかまくら作りへの参加を許可した。

 進藤が二本雪掻き用のスコップを借りてきた。
 それで雪を掻き集める。
 東京だとすぐ地面が顔を出すけど、ここのたっぷり積もった雪は豊富で、どこまでも真っ白だ。
 かまくら建設予定地に、進藤が大きな円を描いて、その中にドーム状に雪を積み上げていく。
 時々、スコップで側面を固めながら乗せていくと、雪の塊は私の身長ほどになった。
 
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