雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「こんなもんか」

 仕上げと言って、かまくらの中に入り、側面を掘ったり固めていたりした進藤が出てきて、満足げにうなずいた。

「完成?」
「あぁ」
「やったぁ~」

 青い空を背景にそびえ立つ立派なかまくら。
 記念写真を撮っとこう。
 スマホを構えると、進藤がポーズを取るから「邪魔!」と追い払う。
 なんだよーと文句を言いながら進藤が退いて、余計なものがいなくなったから、パシャパシャと写真を撮った。

「撮ってやろうか?」

 進藤がそう言うので、私はかまくらに入って座ってみた。

「わぁ、結構広い!」

 思わず、顔がほころんだ。
 
 カシャ

 進藤が写真を撮り始める。

「ほら、笑って」

 そう言われるけど、笑顔は苦手だ。それに進藤に向かって素直に微笑めるはずもなく、引きつった笑いになった。
 そこに、女将さんが声をかけてくれる。

「完成したんですね。オヤツにおぜんざい食べますか?」
「食べたいです!」

 憧れのかまくらの中でおぜんざい!
 やってみたかった!
 私は全開の笑顔になった。

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