雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「バカッ、そんなわけないじゃない! 昨日が二回目だったのに!」
「二回目!? ってことは、今ので俺が三回? 勝った!」

 なんの勝負に勝ったと言うのか、わけわからないけれど、進藤は拳を上げた。
 あ、しまった。思わず、昨日のを認めてしまった。

「ん? じゃあ、なんで淫乱なんだ?」
「だって、好きでも付き合ってもないのにこんなことして気持ちいいなんて……」
「お前なー、さらりと残酷なこと言うなよ〜」

 進藤がまたうなだれた。
 耳が垂れているのが目に見えるようだ。
 ヤツがなにを落ち込んでいるのか、わからない。
 『また襲ってしまった』って後悔しているのかな?

 どうでもいいけど、人の身体の上でうなだれないでほしい。
 と、いきなり進藤は顔を上げ、いいことを思いついたというように顔を明るくした。

「淫乱が嫌だったら、俺だけにしとけば? 付き合う?」
「なんで、私があんたと付き合わないといけないのよ!」

 そう言いながら、そうか進藤だけだったら淫乱ではないかとちょっとほっとした。

「そううまくはいかないか……」

 なぜか進藤が拗ねた。

(魅力的だからといって、誰でもあんたと付き合いたいと思ってるなら大きな勘違いだからっ!)
 
 私はヤツを押しのけた。
 


  
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