雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「ってことで、俺はちゃんと安住の意見を聞くぞ? どうして欲しい?」
 
 ニコニコと無邪気そうに聞いてくる進藤は、私の上に跨っていた。

(意見を聞くと言う割に、今の今までなんの意見も聞いてもらえなかったけど?)

 寝る段になって「気持ちいーこと、しよーぜ」からの「もう三回もしたんだから、四回でもいいだろ?」「ダメな理由を言ってみろよ」と畳みかけられて、理由を考えている間に、押し倒された。
 もちろん、そのままで済むはずもなく、口を吸われ、身体中、愛撫され、どんどん頭がぼんやりしてくる。
 
 昼間の真面目な議論が嘘のようだ。
 あの別荘を売る方法もそうだけど、開発プロジェクト自体の方向性を再提案してみようと盛り上がっていたのに!

「どうって……」

 むやみに整った顔を見上げる。
 進藤の腹立つところはさらに愛嬌まであるところだ。

 ……ダメだ。質問しながらも愛撫をやめない進藤のせいで、全然頭が働かない。
 抗議するように睨むと、なぜかヤツは喉を鳴らした。

「……っ、そんな色っぽい目で見るなよ」

 かすれ声でささやくと、少し目を伏せた。
 長いまつ毛が影を作り、色気を醸し出す。
 
(自分こそ柴犬のくせに、色っぽいってなによ!)

 私が憤っていると、視線を上げて、目を合わせた進藤は「しょうがないな。選択問題にしてやるよ」と偉そうに言った。

(選択問題?)

 疑問に思った、その時───

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