雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
(あれ? なんで朝? 甲羅酒呑んで、それから……?)

 私は素肌に進藤のものと思われるTシャツを着ていた。ブラはつけてないものの、ちゃんとパンツは履いていたし、致した感覚もない。

(ただ酔って寝ちゃっただけか)

 ほっとした直後、重要なことに気づき、ガバッと飛び起きた。

「あああ〜っ、私、雑炊食べてない〜〜〜っ!」

 すっごくすっごく楽しみにしていたのに〜!
 カニの旨味が存分に出た雑炊。カニ身のほぐしたのをちょっと入れたり、カニ味噌を混ぜたりして、そこにひとつまみ塩を振って、パリパリの海苔をかけて。
 絶対美味しい! 至福の味のはずだったのに……。

 私が打ちひしがれていると、なんだ?と進藤が起き上がった。
 ぼーっと瞬きした後、急に焦点が私に合ったかと思ったら、彼が叫んだ。

「ああーっ、お前、いい加減にしろよ!」

 進藤はめずらしく本気で怒ってるらしい。
 赤い顔で私を睨んでいる。

(進藤がこんなに怒るなんて、いったいなにをしたんだろう?)

 でも、怒りなら私も負けてない。

「なによ! 雑炊作ったら、起こしてくれてもいいじゃない!」
「雑炊はあとで作る! それより、お前、二度と俺以外の前で酒を呑むなよ?」
「あとで?」

 私の怒りは彼の言葉で一瞬にして霧散する。
 
(雑炊できるの?)

 思わず、顔がほころぶと、ほっぺを摘まれた。

< 48 / 95 >

この作品をシェア

pagetop