雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「お前、そんな可愛い顔してもダメだ! 自分がなにやったのか、覚えてないのか?」
「なにかした? 甲羅酒を呑んだところまでしか覚えてないんだけど」

 進藤はガクッというように私の肩に顔を埋めた。

「……抱きついてきたり、脱ぎだしたり、す、好きだと言って顔をすり寄せてきたり、可愛すぎて死ぬかと思った」
「はあ?」

 ボソボソ告げられた言葉に、耳を疑う。

(そんなの覚えてない! っていうか、酔ってたとはいえ、そんなこと本当にした? カニ愛を語ったような覚えはぼんやりあるけど)

 首をひねっていたら、ふいに進藤は顔を上げて、じぃぃっと私を見て文句を言った。

「なのに! 俺をさんざんその気にさせておいて、お前はあっさり寝たんだぞ? 取り残された俺の気持ち、わかるか!?」

 思い出したらムラムラしてきたと進藤は言い、いきなり押し倒された。すぐにヤツの唇が下りてくる。

「責任取れよ……」

 口がくっつく直前にそうささやいて、進藤は問答無用で私の唇を貪った。
 同時に愛撫も始まる。
 
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