雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「じゃあ、棚にタオルとかドライヤーあるから適当に使えよ」
「わかった」
「下着は洗ってるから」
「えっ!」
「あのぐしょぐしょのを履くつもりだったのか?」
「……バカッ」

 私は進藤に枕を投げつけた。
 ヤツは余裕で受け止めると、笑って私の頭を撫でた。

「ほら、早く行ってこいよ。雑炊食べるんだろ?」
「あっ、そうだった!」

 カニ雑炊を思い浮かべると、くぅうとお腹が鳴った。
 爆笑する進藤を睨んでベッドから下りたら、今度はヤツが息を呑んだ。すぐ後ろを向いて、額に手を当てている。

「お前〜、襲われたくなかったら、さっさとシャワーを浴びて、もうちょっとマシな格好してこいよ」

 言われてみると、私は進藤のTシャツ一枚着ているだけだ。
 これ以上、襲われないうちに、足元に綺麗に畳まれて置いてあった服をひっつかみ、急いでお風呂場に行った。
 


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