雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
 手早く洗って、ドライヤーで髪を乾かしていると、進藤が声をかけてきた。

「もうご飯を投入していいか?」
「うん、もう終わる」
 
 髪の毛を梳いて、リビングに戻ると、進藤が雑炊を取り分けてくれているところだった。
 カニ身もカニ味噌も乗っている豪勢な雑炊だ。

「わぁ、美味しそう!」

 夏希の分と言って持たされた丼を、コタツに運ぶ。
 進藤もすぐ自分の分を持ってきた。

「いただきます」

 熱くて食べられないのはわかっているけど、気が早って、レンゲに雑炊をすくっては落とし、すくっては落とし、早く冷まそうとする。
 そして、ちょびっとすくった雑炊をはふはふして、食べてみた。

「ん〜っ、美味しい〜!」

 濃厚なカニの旨味がご飯に浸透して、とんでもなく美味だ。
 至高の味に目を細めていると、進藤がなぜかスマホで写真を撮っていた。

「なによ?」
「いや、あまりにうれしそうな顔をしてるから、つい」
「だって、幸せだもん」
「……カニを取り寄せた俺、グッジョブ!」
「うん、グッジョブ!」

 めずらしく意見が一致して、微笑み合った。

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