雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「そうだ、お代払うから」
「そんなのいいよ。ふるさと納税だし」
「でも、野菜とかいろいろ用意してくれたでしょ?」
「別に……、あ、ならさぁ、今度、夏希がご馳走してくれよ」
「ご馳走? 大したもの作れないけど?」
「俺、好き嫌いないし、なんでもいい。夏希が作るものだったら」

(なんでもいい?)

 なんか勝負を挑まれた気がする。
 よし、受けて立つ!
 すごく美味しいもの作って、ギャフンと言わせてやるんだから!

「いいわよ。じゃあ、いつにする?」
「いいのか?」

 自分から言い出したくせに、びっくり顔の進藤にあきれる。
 
「じゃあ、やめる?」
「いやいや! 来週は?」
「来週は出張でしょ?」
「そうだった。じゃあ、再来週!」
「わかった」 

 尻尾を振り出しそうな顔で笑う進藤は、男のくせに可愛らしい。ムカつく。
 私は彼の顔から目を離して、至福の雑炊に戻った。





 
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