雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
「まいったな……」

 進藤が溜め息をついた。
 視界が悪い中、やっとの思いでバス停にたどり着いたのに、時刻を見たら、バスは行ったばかりの時間。
 しかも、『降雪時は運休の場合もあります』との手書きのメモみたいな貼り紙もあった。

(ウソでしょう? どうしよう?)

 慣れない雪道で足はクタクタ、雪が浸透して下着まで濡れ、身体は凍りつきそうでガタガタ震えていた。
 ここでバスが来るまで待つなんて無理だ。かといって、どうする? 

「笹本さんの別荘まで戻る?」

 そこまで行けば、少なくとも雪と風は防げる。問題はそこまでたどり着く体力があるかしら?

「いや、この辺に避難小屋があるって宿の人が言ってた。あぁ、あれか」

 私たちが歩いて来たのとは反対側に小さな丸太小屋が目に入った。

(近くて助かる!)

 ほっとした途端、足を滑らせて、進藤に支えられる。

「大丈夫か!? っていうか、むちゃくちゃ震えてるじゃないか! 急ぐぞ」

 私を抱え込むようにして、道を急がせる進藤にムッとしたけど、それを振り払う力もなく、彼に触れたところが温かくもあり、腹立たしく思いながら、避難小屋を目指した。

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