雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。
 避難小屋に着き、私を入らせると、進藤はもう一度外に行った。
 とりあえず、スニーカーと靴下を脱いでへたり込んでいた私はただ眺めるばかりだった。身体が強ばって石みたいだった。
 薪を抱えて、進藤が戻ってきた。

(あぁ、なるほど!)

 避難小屋の中央には薪ストーブがあった。
 進藤はその前に跪いて、火をつけた。
 小さな火はだんだん大きくなって、火の熱が伝わってきた。
 踊る炎を見るとほぅっと息をつく。

「手際いいわね」
「キャンプが趣味だからな」
「へー」

 こんな顔して、キャンプするんだ。
 まぁ、興味ないけどね。
 
 ストーブの熱が顔に当たって、ちりちりした。
 それでも、冷え切った身体を温めるには足りなくて、私はぼんやりその炎を見つめていた。
 進藤はテキパキと備品を確認していった。
 といっても、狭い小屋の中、あるのは一枚の毛布だけのようだった。

 溜め息をついた進藤が振り返った。
 
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