雪山での一夜から始まるような、始まらないようなお話。

おまけ

「夏希……」
「んー、なに、進藤?」

 身体を重ねた後、とろりベッドで蕩けていると、進藤が背中を撫でながら私の名前を呼ぶ。
 その手の心地よさに目を細め、視線を上げた。

「なあ、いつまで進藤なんだ?」
「ん? 進藤は進藤でしょ?」

 言ってる意味がわからず、首を傾げる。

「お前、俺の名前、覚えてないだろ」
「覚えてるよ。巧でしょ!」
「おっ、知ってたんだ」
「当然でしょ」
「でも、恥ずかしくて下の名前なんて呼べないんだろ? それに夏希は不器用だから、公私で使い分けなんてできないんだろうなぁ」

 なに〜! バカにするな!
 その勝負、受けて立つ!

「呼べるわよ! 巧! 今日からあんたは巧よ! 会社ではちゃんと進藤って呼ぶからね!」

 進ど……巧が笑う。
 うっかりときめく。
 最近気づいたけど、私はこのわんこな笑顔に弱い。

「夏希」
「なによ、巧」
「なんでもない。ただ好きだと思っただけ」
「〜〜〜〜〜っ」

 顔を伏せ、赤くなった顔を隠した私の耳に、巧がキスをした。
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