もう少しだけ
俺は満足げに笑って,またうつ伏せる。

顔は奈都に向けたまま。

そしていつも通り奈都は話し出す。

特に特別な内容ではない。

俺相手でなくても良いもの。

それでも俺のところに来てくれるところが可愛い。

奈都の目はずっと楽しそうに笑っている。

その目をみて,

(抱き締めたい)

なんて奈都の話もそこそこに思う。

うんなんて適当な相づちにも,奈都は嬉しそうに笑うから。

軽やかに弾む声,元気よく動く唇。

ふっ…と俺の目に睫がかかったのを見て,奈都は話を止める。



「ごめんね。いつも通り寝てるだけなんだと思ってたんだけど……体調わるかった?」



的外れな見解に下がった眉。

俺はつい笑ってしまう。



「わっ笑った! 他の子にはしちゃ駄目だからね!? すっごく格好いいよ!」

「……バカじゃないの,うるさい」

「えぇ~! だって……」



キスしたい,なんて,言ったらどんな顔する?

いつも,奈都が欲しいなんて考えてるって知ったら,どんな顔してくれる?

でも,まだ言わない。

もう少しだけ,この時間を楽しみたい。

俺が安心できるまで,このままでいさせて。

ぽんっと奈都の頭に手を置いて,そのまま左右にゆっくり動かす。

真っ赤になる奈都に,俺の心は満たされる。 

ずっと,こんな表情を見ていたい。

ね? もう少しこのままでいさせて。

奈都がそれを俺に伝えてくれたら,俺も俺をあげるから。
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