極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 無意識に衛士の両親まで同じ雰囲気だと決めつけていたかもしれない。

「杉井社長はたしかに厳しい人かもしれないが、未亜や茉奈に対する愛情は本物だよ」

「……うん」

 わかっている。結局、茉奈の存在を認めて可愛がってくれている。衛士は私のいないところで父といろいろ話したんだよね? どんな会話を交わしたんだろう?

 ちらりと運転する彼の横顔を見ながら、その質問はのみ込んだ。

「衛士もいいお父さんだよね。茉奈、衛士に会うとご機嫌になるの」

 代わりに先ほどの件を持ち出して改めて助かった旨を伝える。

 私相手だと服を着ないとごねていた茉奈だが、衛士に会うと笑顔になっておとなしく言うことを聞いていた。

 有難い反面、少しだけ悔しかったのも事実だ。その結論に達して慌てて内心で訂正する。

 悔しいってなんだろう。茉奈が衛士の言うことを聞いて、いいことしかない。こんな感情は間違っている。

 なら、このモヤモヤはなに?

「それは茉奈が俺に気を許していないからだよ」

「え?」

 ところが衛士から返された内容がまさかの内容で、目が点になる。

「茉奈なりに緊張して、まだ俺には素直に甘えられないんだと思う。未亜には素の部分を晒せるから無理を言ったりぐずったりできるんだろうな」

 そんなふうに思ってもみなかった。てっきり私より衛士の方が茉奈の扱いが上手いからなのかなって。

 衛士はちりとこちらを見て、すぐに前を向いた。
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