極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「茉奈にとって未亜が結局、一番なんだよ。全部を預けられるって信頼関係が成り立っているのは、母親なのはもちろん未亜がずっと茉奈に向き合っていたから、一歳でも茉奈なりにわかっているんだ」

 衛士の言葉がすとんと胸に落ちてきて、心がふっと軽くなる。

 ああ、そうか。茉奈にとっては、いつも一緒にいる私より会う時間の短い衛士の方がいいのかなって、少しだけ卑屈に考えていたんだ。そんなことないってすぐにわかるのに。

「そういう点で言えば俺はまだまだだな。もっと茉奈にも甘えてもらえるよう努力するよ。改めて母親は……未亜は本当にすごいと思う」

 ニコニコして可愛いときだけじゃない。どんなに機嫌が悪くても、泣いてぐずっているときも関係なく私は茉奈を育てていかないといけない。

 母親だから当たり前だって言い聞かせていたところもあったけれど、衛士は理解してくれているんだ。私の頑張りを認めてくれている。

 信号で車が止まり、衛士がこちらを向いて手を伸ばしてきた。頭に軽く手のひらが乗せられる。

「未亜、いつもありがとう。お疲れさま」

 不意に涙腺が緩みそうになる。衛士が来る前の茉奈のイヤイヤがすごくて手を焼いていたから余計にだ。

 ちらりと後部座席に座る茉奈を見たら、着ているワンピースについているフリルを珍しそうに掴んで眺めている。

 精神的にも体力的にも、心が折れそうなときがたくさんある。でもやっぱり世界一可愛い私の宝物だ。大切で大事な衛士との娘なんだ。

 気持ちを切り替えて、茉奈のためにも衛士の両親への挨拶をしっかりしようと身を引き締めた。
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