極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 リビングのソファに茉奈を抱っこした衛士と私が並んで座り、机を挟んだ正面に衛士のお父さんが静かに着席した。

「まさか杉井電産のお嬢さんと付き合っていたとは知らなかったよ」

 朝霧社長は苦笑しつつ漏らした。その言い方は本当に意外だと驚きを孕んでいて、元々朝霧社長の指示で衛士が私に近づいてきたのだと考えていた疑惑が晴れる。

「未亜さん、杉井社長の体調はいかがかな?」

 話を振られ、居住まいを正す。

「はい。おかげさまで退院の目処もつき快方へ向かっています」

「そうか、お大事に」

 そこで私は今後、杉井電産はラグエルジャパンに託すことになるのを思い出す。今回の衛士との結婚の発端だ。

「このたびは、杉井電産をどうぞよろしくお願いいたします」

 何年も前、それこそ衛士と付き合う前からラグエルジャパンは杉井電産に技術提携などを持ちかけてきていた。父が首を縦に振らなかったが、先方にとってはそれが叶うわけだ。

 朝霧社長は仰々しい私の態度に困惑気味に微笑む。その表情は、どこか衛士に似ていた。

「こちらこそよろしく頼むよ。杉井電産さんの技術は相当なものだ。世界中が注目しているから、もっとアピールして杉井電産さんの名前と共に日本の技術として世界中に誇って、残していくべきだと思うんだ」

「……ありがとうございます」

 お礼を告げつつ私は内心でわずかに動揺していた。てっきり杉井電産の技術などはラグエルに取り込まれ、ラグエルの事業拡大や業績に貢献するために求められていると思っていたから。
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