極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「はい、あなたと衛士はコーヒーね。茉奈ちゃんはお茶とジュース、どちらがいいかしら?」

「じゅーちゅ!」

 ソファにちょこんと座り、借りてきた猫のようにおとなしかった茉奈が大きく反応する。それを見て、場の空気がさらに和やかなものになる。

 中身はリンゴジュースらしく、あげてもいいかと慶子さんから尋ねられ、私は頷いた。

 プラスチックの小さなコップを渡された茉奈はごくごくと飲み始めた。

「本当に可愛らしいわねぇ。衛士の小さい頃を思い出すわ」

「上手に飲むもんだな」

 慶子さんと朝霧社長は茉奈の姿を愛おしそうに眺めている。

 茉奈のことをいくつか尋ねられ、私は茉奈の好きなものや性格、保育園での生活などを話し始めた。そして気づけば出産のときまでさかのぼっていた。

 一方的に話し始めたかと我に返ると、慶子さんも朝霧社長もなんだか切ない顔でこちらを見ている。隣にいる衛士まで聞き入っていた。

「未亜さん、すまなかったね。ラグエルジャパンの後継者として衛士のアメリカ行きは必須で決まっていたから、ふたりを別れさせる事態になって」

「い、いえ」

 朝霧社長が神妙な顔で謝罪を口にしたので、私は肩を縮め恐縮した。慶子さんが頬に手のひらを当て、ため息交じりに同意する。

「本当、当時衛士の雰囲気が丸くなって、結婚を前提にお付き合いしている人がいるって聞いたときは驚いたけれど、留学をきっかけに別れてしまったなんて。待つのもついていくにしても覚悟のいることだったでしょうし」

 どうやら衛士はご両親に、私と別れた原因は彼のアメリカ行きがきっかけだと伝えているらしい。
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