極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「疲れているでしょうし、ちょっと寝かせていってあげたらどうかしら?」

「い、いえ。大丈夫ですよ!」

 私は遠慮して首を横に振る。しかし朝霧社長も大きく頷いた。

「私たちはもう行くが、ゆっくりしていったらいい」

「寝かせるのは衛士の部屋のベッドでいいかしら?」

 ご夫婦の間で話はどんどん進んでいく。衛士に助けを求めようと視線を送ったが、彼は大きくため息をついた。

 おそらくこうなっては拒否できないのを息子として心得ているらしい。そうなると私はなにも口出せない。

「そういえば未亜さん、衛士の部屋を見ていなかったでしょ? とくに面白いものはないけれど案内してあげたら?」

 にこにこと提案する慶子さんに、私は返答に困った。そこで衛士が眉根を寄せながら答える。

「わかった。とりあえず父さんと母さんはもう行ったらどうだ? あとは適当にこっちでやっておくから」

 そう言って衛士は朝霧社長から茉奈を受け取る。

「未亜さん、今日はありがとう。また茉奈ちゃんと一緒に遊びにいらしてね。衛士抜きでも、ぜひ!」

「衛士、仕事も大事だが未亜さんと茉奈ちゃんを大切にな」

 なぜか私たちが見送る側となり、衛士の両親に別れを告げた。広いお屋敷に私たち三人だけになる。

「悪いな、振り回して」

 玄関の扉が閉まったのとほぼ同時に、衛士が気まずそうに口火を切った。

「ううん。ありがとう。かえって気を使わせちゃって……」

「未亜や茉奈に会えたのがよっぽど嬉しかったらしい。母はもちろん、あんなふうに頬を緩ませている父は久しぶりに見たよ」

 そう話す衛士の顔も嬉しそうだ。うちの父しかり、孫の力は偉大らしい。
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