極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「ひとまず茉奈を寝かせるか」

「うん」

 衛士の後に続く。先ほどの慶子さんの発言ではないが、実家の衛士の部屋を見るのは初めてだ。

 少しだけ期待に胸を膨らませながら、階段を上る途中、何枚もの飾られている絵に目が奪われる。

「これ……」

「ああ、母が好きなんだ」

 そこには有名どころの絵画が飾られていた。レンブラントやフェルメール、ルーベンスといった巨匠たちのもので、緻密に描かれている作品はその場の空気感まで伝わってくる。

 どうやら衛士の実家は見た目だけではなく、中身まで美術館を模しているらしい。もしも母が生きていたら慶子さんと馬が合ったかもしれない。

「あとでじっくり見てもいい?」

「もちろん」

 衛士の自室は、付き合っていたときのマンションに雰囲気が似ていた。

 白色の壁と天井に家具はモノトーンですっきりまとめられ、ベッドや作業用デスク、ソファに本棚などが配置されている。空間を贅沢に使い、圧迫感がまったくない。

 衛士は真っすぐベッドに歩を進め茉奈を寝かせた。体勢が変わったからか、茉奈が目を閉じたまましかめ面になる。けれどそれは一瞬で、彼女は相変わらず夢の中だ。

「初めての場所、さらには初対面の大人に囲まれて茉奈も疲れたな」

 茉奈の頭を撫でながら、すまなさそうに呟く衛士に私はわざと明るく付け足した。

「大はしゃぎだったもの。茉奈も衛士のご両親に……祖父母に会えて嬉しかったと思う」

 こんなことならもっと早くに挨拶に訪れるべきだったな。それ以前に……。
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