極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 誤魔化すように気持ちを切り替え、私は部屋の中に目線を飛ばした。

「初めて来たけれど衛士の部屋って感じがする」

「母さんが言ったように、とくに面白いものはないだろ?」

 素直な感想を漏らすと衛士が苦笑する。

「面白さは求めていないよ。なんだか落ち着くなって」

 本棚は洋書がメインで、経営に関する本や仕事関係の資料、美術の本もあった。衛士の趣味や努力の証が十分に伝わってくる。

 ご両親に挨拶するために実家にやってきたが、知らなかった衛士の一面をたくさん見られた。ラグエルジャパンの後継者というより息子としての彼の立ち位置がなんだか新鮮で、微笑ましかった。

「私、茉奈のそばにいるから衛士はすることがあったらどうぞ」

 しばらくは起きないだろうが、この部屋からリビングまでは遠いから茉奈が目覚めたときのことを考えると離れられない。

 なによりここは衛士の実家だから、あまり私がうろうろするわけにもいかないし。

 すると衛士がおもむろに私の方に近づきさりげなく手を取って歩き出す。

「どうしたの?」

「おいで」

 連れていかれたのはドアの方ではなく、衛士に促される形でグレーの肌触りのいいソファに腰を下ろす。

「なにか淹れてくるよ。未亜も疲れただろ、茉奈も寝ているし少し休んだ方がいい」

 衛士の気遣いに目をぱちくりとさせる。

「平気だよ、ありがとう。衛士の方こそ大丈夫?」

 体調はもちろん忙しさも合わせてだ。ご両親と会っている際、衛士の電話が何度も鳴って彼は渋々対応するため部屋を出ていった。おそらく仕事絡みのことだろう。
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