極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 入れたそばから中身を出していったり、無理やりガムテープを剥がしたり、やることなすこと妨害でしかないが、それは大人の都合だ。

 大きな病気もなく元気ならいい。そんなふうにポジティブに考える。

 茉奈が早く新しい生活に慣れるといいな。住む場所はもちろん、衛士と一緒の生活にもだ。後者はあまり心配していない。

 スマートホンが鳴り、衛士が到着したと知る。もう時間だ。軽くバッグの中身を確認した後、玄関を出て下で待機しているタクシーの元に駆ける。

 後部座席のドアが空き、中にいる衛士が軽く手を上げた。

「こっちまで回ってくれてありがとう」

 お礼を告げて彼の隣に乗り込む。今日の衛士は黒のタキシードに身を包み、髪もワックスできっちり整えていて、いつもにも増して貫禄がある。

「今日は悪いな、付き合わせて」

「ううん。あの、こんな格好でよかったかな?」

 今さらなにか気になることがあると言われても対処できるとは思えないが、完璧な彼を前に不安になってしまう。

「なにも問題ない。よく似合ってる」

 そう言って衛士は私の左手に自分の手を重ねた。そして、そっと左手の薬指に触れる。

「茉奈は大丈夫だったか?」

 伝わる温もりにどぎまぎしながら、私は頷く。

「うん」

 茉奈は引き続きパーティーが終わるまで陽子さんに預かってもらうことになっている。長い時間を申し訳ないと思いつつ、預けるのは久しぶりだからむしろ喜ばれた。
< 129 / 186 >

この作品をシェア

pagetop