極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 最近の茉奈はお絵描きが好きらしく、紙とペンをよく要求してくる。

「また一段と語彙が増えてきたよな」

「どんどんお喋りになるね」

 衛士と茉奈が初対面を果たしてから一ヶ月が過ぎている。その間でも、こうして茉奈の成長を一緒に感じてくれるのは嬉しい。

 留守番している茉奈のことを想像し、頑張ってパーティーを乗りきり、早く迎えに行こうと決意した。

 ホテルの一番大きなホールを貸し切り、煌びやかな内装と色とりどりの女性参加者のドレスが会場を彩る。

 対する男性陣は、こういうとき似たような格好になりがちだが、衛士は周りに溶けることなく目を引く存在となっていた。洗練された容姿はもちろん、常に多くの参加者に囲まれている。

 私はそんな彼の隣で静かに微笑み、自分の役割に徹していた。

「まさか杉井電産のご令嬢と結婚されていたなんて」

「留学前に? お子さんまで?」

 杉井電産の社長の娘としてそれなりに顔見知りが多く、同じ業界に籍を置いていると楽でもあり面倒でもあると感じる。

 茉奈の存在を隠すつもりはないとあらかじめ衛士に言われていたが、私たちの結婚に妙な勘ぐりや興味を示す人がいてもおかしくない。ましてや私と衛士の取り合わせだ。

「いやぁ、杉井電産のご息女とラグエルジャパンのご子息とは。業界の未来は明るいね」

「うちの娘をどうかと朝霧社長に話したこともあったんだが、杉井電産の社長令嬢なら敵わないなぁ」

 代わる代わる挨拶にやって来ては、談笑していく関係者にお礼を告げ、その都度似たような会話を繰り広げる。
< 130 / 186 >

この作品をシェア

pagetop