極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 息つく暇もないのは私も衛士も同じだが、あくまでも私は衛士の添え物だ。メインとなってゲストの相手をする衛士を横目に、父もこんな感じだったのかと考える。

 私は適度に会場から出て休んだりしていたが、会社を背負う父の立場ではそういうわけにはいかない。笑顔でいながらも、ひたすら気を張り詰めていた。

 私は衛士の横顔をちらりと見つめる。

 私は彼の妻としてなにができるんだろう。衛士は私になにを望んでいるんだろう。

 その疑問を今は口に出すことはできない。

 主要なゲストへの挨拶は済ませ、ある程度声をかけてくる人の波が落ち着いてきたタイミングで、私は化粧室に足を運ぶためホールの外に出る。

 重厚な扉を一枚隔てた先は、中の賑わいが嘘のように人も少なく静かな空間だった。

 こういう場は初めてではないにしろ、緊張も相まってさすがに疲れを感じる。

「あら、ご主人をひとりにしていいんですか?」

 主語はないが自分にかけられたものだとすぐに気づく。声のした方を見ると、同年代かやや年上の女性が三人ほどこちらをちらちら見ていた。

「ご結婚おめでとうございます」

「驚きました。まさか朝霧さんが杉井電産の娘さんと結婚されるなんて」

 口々に祝辞を述べられるが、あまり好意的な雰囲気は感じられない。どことなく値踏みするような視線を向けられるが、受け流す。

「杉井電産としては助かりましたね。ラグエルの後ろ盾は大きいでしょうから」

 その発言に、残りの女性たちも顔を見合わせて笑いだした。
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