極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 なるほど。私と衛士の結婚を面白く思わない女性は、一定数いるわけだ。状況から私たちの結婚は政略的なものでまとまったと思われているらしい。

 同じ業界内、さらにはそれぞれ会社の代表取締役の子どもたちとなると、なにかしらの意思が働いていると考えるのが普通だろう。

 杉井電産のここ数年の業績不振は、業界内で知られるところになっている。

 そこで、彼女たちのうちのひとりが『うちの娘をどうかと朝霧社長に話したこともあった』と言っていた人の娘さんだと気づいた。

「お子さんまでいらっしゃったんですね。やっぱり妊娠をきっかけに結婚されたのかしら?」

 冷静に相手を観察していたら別の女性の発言が飛んできて、私は目を見張る。

「そうでもしないと朝霧さんが結婚なんてしないんじゃないですか?」

「お父さまのために必死ですね。私にはとても真似できません」

 私も、と同意の声と共に彼女たちは勝手に盛り上がり、ひそひそと顔を見合わせ笑っている。

 私は彼女たちの方へ一歩踏み出し近づいた。それが予想外だったのか彼女たちは会話を止めて、訝しげにこちらを見てくる。

「なんですか? みんな言ってますよ?」

 仔犬が吠えるように女性が噛みついてくるが、私はふっと微笑んだ。

「そうですね。でもせっかく彼と結婚できたので、これも縁ですから妻としても母としても精いっぱい頑張ります」

 私の返答に彼女たちは口をポカンと開けた。失礼します、と言おうとして背後に気配を感じる。
< 132 / 186 >

この作品をシェア

pagetop