極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「妻がどうかしましたか?」

 うしろから肩に手を置かれたのとその場に低い声が響いたのは、ほぼ同時だった。そこには冷たさを孕んだ笑顔を貼りつけている衛士の姿がある。

 突然の彼の登場に私はもちろん、女性たちもあからさまに狼狽えだした。

「い、いいえ。奥様に結婚のお祝いを伝えていただけです」

「突然のお話だったので、どういった経緯でご結婚されたのか馴れ初めがお聞きしたくて」

 たどたどしく言い訳する彼女たちに対し、衛士は私の肩を抱いたままさりげなく隣に移動した。

「経緯もなにも、ぼくのひと目惚れですよ。何度もプロポーズしてやっと彼女に結婚を承諾してもらえたんです」

 そう言ってさらに彼の方に引き寄せられ、私は戸惑う。衛士は私と一度目を合わせると、彼女たちの方に視線を向けた。

「ですから、他にも勘違いしていらっしゃる〝皆さん〟に事実を伝えておいてください」

 言い捨てて衛士に促される形で彼女たちに背を向ける。どことなく彼が不機嫌なのが伝わってきて話しかけられずにいたら、会場に戻ってあまり人目につかない端の方で衛士から口火を切った。

「みんなって誰だ、みんなって」

 舌打ち交じりに呟いた彼の言葉に私は苦笑する。

『みんな言ってますよ?』

 どうやら彼はあのセリフを聞いていたらしい。

「嫌な思いをさせたな」

 打って変わって心配そうな面持ちで告げられ、私は慌てて首を横に振る。

「平気だよ。こちらこそ戻ってくるのが遅くなってごめんね」

 あんなことは言われ慣れている。それこそ衛士と出会う前からだ。
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