極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 社長令嬢という立場に対し、私も好き勝手言われてきた。好意的なものもあればそうではないものまで。いちいち気にしていたらきりがない。

 受け流すすべはもうとっくに身につけている。まさかこういうときに役に立つなんて。

 私は努めて明るく返す。

「衛士は魅力的だから、ある程度は覚悟しているよ。相変わらずモテるね」

 私の切り返しに衛士はわずかに目を丸くして、鬱陶しそうに前髪を掻き上げた。

「俺自身じゃない。ラグエルジャパンの後継者って肩書きがいいだけだ」

「それだけじゃないよ。衛士は、見た目はもちろん中身だって素敵だから」

 彼を本気で好きで、結婚したいと思う女性はきっとたくさんいる。だから、さっき最後に彼女たちに言い放った内容は本心だ。

「そう思ってくれるのは未亜だけでいい」

 不意に返された言葉に私は目を瞬かせる。すると私をじっと見つめた衛士が、私の頬に指を滑らせた。続けておもむろに耳元に唇を寄せられる。

「未亜だけでいいんだ」

 まるで内緒話をするかのような体勢と低く甘い囁きに体が硬直する。瞬きも呼吸さえも止まりそうになった。

「衛士?」

 そこで第三者の声が聞こえ、私の金縛りは解ける。衛士は素早く私から離れると、声のした方に体向けた。

亜由美(あゆみ)

 衛士の口から女性の名前が紡がれ、私は急いで彼の視線の先を追った。

「いたいた。奥様にも挨拶しようと思って探していたの」

 ブルーの爽やかなドレスを身に纏い、ショートヘアの快活そうな女性が笑顔でこちらに寄ってくる。
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