極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 のぼせ上がった体にはベッドのひんやりとしたシーツが心地いい。

「大丈夫か?」

 私の髪先をいじりながら衛士が心配そうに尋ねてきた。彼に抱きしめられたまま小さく頷く。

「うん」

 正直、まだ体に熱がこもっていて頭がぼーっとしている。長湯だけが原因ではないのは明白だ。あのまま彼にたっぷり愛されるとは思ってもみなかった。

 衛士は上半身裸のままだが、私は彼のシャツを一枚拝借し羽織っている。

「衛士は、なんで結婚したくなかったの?」

 突然の私の質問に衛士の手が止まる。

 亜由美さんに聞いて、と付け加えると彼の顔はわずかに苦々しいものになった。

「自分みたいな人生を背負わせたくなかったんだ。未亜と出会う前の俺は、ラグエルジャパンを継ぐことを父親に決められているものだと思っていた。やさぐれていたんだよ」

 子どもができたら衛士と同じようにラグエルジャパンを継ぐことを求められる。そんなふうに考えて、衛士は子どもはおろか結婚さえまったく願望はなかったらしい。

「でも未亜と出会って、俺は変わったんだ。自分の置かれた状況をもっと前向きに考えようと思えた。なにもかも本当に父親や周りに強制されたものなのか、自分の意思はどこにあるのかって考えるようになって」

「うん。この前も思った。今の衛士は自分の意思でラグエルを継いで守っていこうって気持ちがすごく伝わってくる」

 だから父も衛士に杉井電産を任せようと決意したのだろう。
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