極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「未亜」

 名前を呼ばれ、過去の記憶なのか現実なのか区別がつかなかった。続けて肩に手を置かれ、我に返った私は慌てて振り向く。

 そこに先ほど病室で数年ぶりに顔を合わせた衛士がいた。珍しく息せき切って切羽詰まった表情だ。

 懐かしさとさらに精悍になった顔立ちに目を奪われたのは一瞬で、私はすぐさま視線を逸らす。

「ひ、久しぶり。父の言っていたことは気にしないで。杉井電産に関してはそちらに」

「子どもってどういうことなんだ?」

 表面的な会話をしようと試みるも、彼はいきなり核心に触れてきた。

「一歳半ってもしかして」

「違う」

 硬い声で尋ねてくる彼に、私は反射的に否定する。

「違うから余計な心配しないで。あなたには関係ない」

「関係ないわけないだろ」

 感情的なやり取りを交わし、不意にお互い冷静になる。

 ここは総合病院だ。しかも院内から専用の立体駐車場へ続く通路はそれなりに人通りがあり、現にちらほら私たちに興味深そうな視線を送っている人たちが何人かいる。

「場所を変えて話そう」

 前髪を掻き上げ、ため息混じりに提案される。迷った末に小さく頷き、彼に従うことにした。少なくともここでする話ではない。

 これは夢かなにかなの? まさか彼とこんな形で再会して、再び向き合う日が来るなんて。

 そのまま衛士についていく形で立体駐車場に歩を進め、促されるまま彼の車の助手席に乗り込む。付き合っていたときと違う車なのに、わずかにショックを受けた。

 当たり前だ。別れてからもう二年以上経っている。むしろ私と彼の人生が再び交錯している今の状況の方が妙なんだ。
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