極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「このお店、紅茶が美味しいんです。私、紅茶が大好きで自分でもよく淹れるんですけれど、ここみたいな味はなかなか出せなくて」

 子どもみたいにはしゃぎながら力強く説明する未亜に苦笑する。実は紅茶は好きじゃない。昔、飲んだが口に合わずそれからはコーヒー一択だ。

 アメリカでもコーヒーが主流なのもあり紅茶を飲む機会はあまりない。あっても、いつもなら好きではないとはっきり告げてコーヒーにするのだが、このときは未亜の勢いに圧されたのもあった。

 なにより、そこまで彼女が好きだというものに興味もある。

 紅茶を飲むのは何年ぶりか、運ばれてきたティーカップからは湯気が立ち、いい香りが漂っている。

 カップを持ち、透き通った赤橙色の液体をひと口含む。

「うまいな」

 お世辞ではなく、本気で驚く。紅茶はコーヒーに比べると味が薄く物足りない印象だったが、これは鼻に抜ける香りと舌の上に広がる味が絶妙だ。

「ですよね?」

 思わず漏れた感想に、間髪を入れず未亜の声が飛んだ。正面に座る未亜は満面の笑みを浮かべている。

「よかったです。高野さんが気に入ってくださって」

 その笑顔にすべてを持っていかれる。未亜は好みを押しつけたかったわけではなく、相手に喜んでほしくて一生懸命なんだ。このカフェも俺のために……。

「未亜ちゃん?」

 不意に自分たちのテーブルに声がかかる。

 視線をそちらに向けると、若い男性が未亜のそばにやって来た。その距離は近く、態度もやけに馴れ馴れしい。
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