極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「今日はこんなところでどうしたの? また会おうって誘ったのにいい返事をもらえないなと思っていたら、違う男と楽しそうにお茶して」

 未亜は顔面蒼白で立ち上がった。対する男はこちらを蔑むかのような目で見てくる。

「彼ともお父様に言われて?」

「ち、違います。父は関係ありません。あの、すみません。父を通してお断りしましたが、もうふたりでお会いすることは……」

 即座に強く否定した未亜だが、徐々に言いよどんでいく。そこでなんとなく事情を察した。

 おそらく彼は、未亜が父親に言われて紹介されたか、見合いでもした相手なのだろう。しかし結果は上手くいかなったようだ。

 同性としても嫌みったらしいこの男にまったく好感が持てない。

「ひどいな。彼はどこかいいところの社長の息子なのかい? じゃないと、ふたりで会ったりしないよね。お父様の言いなりの未亜ちゃんの基準はそこだから」

 振られた腹いせか、男の言葉を未亜はなにも言わずにうつむき受け止めている。そこで俺の中のなにかが切れる。

「いい加減にしてもらえませんか?」

 低い声で割って入ると、男性と未亜の意識が同時にこちらに向いた。俺は立ち上がって、未亜を庇うような位置でふたりの間に立った。

「彼女を侮辱するのはやめてください。正直、見苦しいですよ?」

 俺の指摘に男の顔がかっと赤くなる。怒りと羞恥で震えているのか、それは声にも表れた。
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