極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「な、なんだ? 関係ないくせに口を出すな」

 まったく知性を感じさせない言い回しに内心で肩をすくめる。さりげなく未亜の肩を抱いて俺は冷たく言い放った。

「関係ありますよ。彼女は俺のものなんです。あなたこそ出る幕も入る隙もまったくないのを理解したらどうですか?」

 今度こそ彼は顔を真っ赤にしたが、なにも言わずこちらを睨みつけてこの場を去っていった。残された側としても、何事もなかったかのようにまた席に着いて談笑するのはどうも厳しい。

 そこまで客が入っていないにしろ、周りからの注目は十分に浴びている。

 紅茶を最後まで堪能できなかったのは残念だが、未亜を促して店を出た。

「あ、あの。すみません」

 店の外に出て、未亜は謝罪の言葉と共に頭を下げてきた。その姿に胸が軋む。彼女はなにも悪くないはずだ。

「謝らなくていい」

 短く返すと、未亜はぎこちなく事情を説明し始めた。

「さっきの男性、父がお世話になっている方の息子さんで、どうしてもと勧められて一度お会いしたのですが……あまり合わない気がして、それ以上はないとお断りしていたんです」

 あの男が声をかけてきたのは、俺と一緒にいる未亜を見てプライドが傷つけられたのか、嫉妬したのか。どちらにしろ――。

「災難だったな」

「いえいえ。私のお断りの仕方が悪かったのかもしれません。もっと上手く立ち回れるように考えます」

 間髪を入れずに否定してきた未亜は、相手を責めることなく自分の中に原因を探ろうとしている。
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