極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 ちょっとお人好しすぎないか? あんなふうに公衆の面前で責め立てられて。

 そう返すと、未亜は困惑気味に笑った。

「相手には相手の事情があるでしょうし、なにより他人を変えるのは難しいですから。自分やこちらの受け止め方を変えるしかないと思うんです」

 未亜の答えに目を見張る。

 俺はどこかで自分の境遇を悲観ぶって卑屈に捉えていた。生まれたときから勝手に次期後継者だと決めつけられ、自分の人生を他人によって決められ、常に色眼鏡で見られる。

 好きでラグエルジャパンの社長の息子に生まれたわけじゃない。

 未亜も同じだと思っていた。彼女も社長令嬢という立場に生まれて、今みたいに好きでもない男と見合いをさせられ、自分の意思とは関係なく苦労を背負わされている。

 けれど彼女は、自らの境遇を嘆くこともなく前を向いて、自分の人生をちゃんと自分のものにしようとしている。

 未亜をじっと見つめていると、途端に彼女は気まずそうに目を伏せた。

「母の教えなんです。それにあの人は私のことが好きというわけではなく、父同士の繋がりを考えた結果、私に執着しただけで……とはいえ関係のない高野さんを巻き込んでしまってなにも偉そうなことは言えませんね」

「巻き込まれたなんて思ってない」

 未亜の『関係のない』という言葉に、わずかに眉をひそめる。その通りなのだが、どうも釈然としない。未亜に他意はないだろうが。
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