極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 屋根のある駐車場とはいえ、さすがにエアコンなしの車内は蒸し暑い。衛士がエンジンをかけたタイミングで私から切り出す。

「父とどういう取引をしたのかは知らないけれど、私はあなたと結婚しない。父が納得してるなら杉井電産もラグエルの好きにしたらいいと思う」

「取引なんてしていない。杉井電産の技術は魅力的だし、うちも昔から高く買っていた。その信頼はもはや一種のブランドだよ。逆に極力、杉井電産の名前を残したいと思っている。ただ、それを杉井社長が認めないんだ」

 普通は逆だと思うのだが、おそらく父のプライドが許さないのだろう。

 自分が代表取締役という第一線を退き、身内が跡を継がず経営に携わらないのに、杉井電産の名を残し続けるのは耐えられないのかもしれない。

「私には……関係ない」

 ぎゅっと膝の上で握りこぶしを作って呟く。脳裏に過ぎるのは、スーツを身に纏い仕事に向かう父の背中だ。

「子どもの件は?」

 そちらの話題を切り出され、弾かれたように衛士の顔を見て否定する。

「本当に違うの! あなたと別れた後に付き合った人で、その……」

 語尾が弱々しくなり目線を落とす。

「それで、相手とは?」

「……現状を聞いたでしょ? 上手くいかなかったの」

 冷たく言いきったものの内心では冷や汗をかいていた。嘘をつく罪悪感か、節操がないと思われるのが怖いのか。

 しっかりしろ。今さら彼にどう思われても、かまわない。むしろ呆れられて軽蔑されるくらいがいいんだ。私と結婚なんて馬鹿な考えを打ち消すくらいに。
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