極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「未亜にしては、ずいぶん衝動的な行動に出たんだな」

 案の定、降ってきた声はどこか冷ややかだった。唇を噛みしめ彼の言葉を受け止めたが、思わず言い返してしまう。

「あんな別れ方をしたらヤケくらい起こすよ」

 すぐに失言だと気づく。衛士との別れについては、とっくに自分の中で折り合いをつけた。どんな感情でも本人にぶつけることはしないと決めていたのに。

 車内が沈黙に包まれ、息さえ止めそうになる。次の瞬間、顎に指をかけられ、強引に彼の方に向かされた。

 射貫くような眼差しに捕まり、動けなくなる。 

「なら、俺が責任を取らないと」

 なにを言っているの? その必要はないと返す前に、強引に口づけられ声にならない。

 すぐに顔を背けようとしたが添えられた手の力は強く、叶わなかった。心臓が早鐘を打ち出し、胸が締めつけられる。

 甘くて苦い。懐かしい彼との口づけにきつく蓋をしていた想いが溢れそうになる。

 ややあって、わずかに唇を離した衛士が吐息混じりに訴えかけてきた。

「未亜、嘘をつくな」

 確信めいた揺るぎない言い方に、心が乱れる。距離は取れないものの、私は精いっぱい彼から視線を逸らした。

「嘘、なんて……」 

「ついてる。俺の子なんだろ?」

 はっきりと言いきる衛士に言葉が出てこない。否定したいのに、茉奈の顔が何度も浮かんで胸が締めつけられる。

 久しぶりに再会して、茉奈の父親が誰なのかと嫌でも思い知らされた。やっぱり茉奈は衛士の子なんだ。

 それに、私は昔から彼に隠し事ができたためしはない。

「未亜」

 懇願するように名前を呼ばれ、しっかりと目を合わせられる。そっと頬に触れられ、自分の中で耐えていたなにかが切れた。
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