極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 彼と何度目かの約束の日、いつも通りふたりでお茶をしているときに、私が前から気になっていた本の話題が出た。すると彼からさらりと提案される。

『うちのマンションにあるよ。見にくる?』

『いいんですか?』

 私は目を輝かせた。外国で出版された西洋美術史の本で、日本ではもう手に入らないものだった。図書館でも置いてあるところは少なく、大きく分厚いので気軽に持ち歩いて貸し借りもできない。

 そこで私はある疑問が浮かんだが、それは今さら過ぎる内容だった。

『その、高野さんは恋人とかいないんですか?』

 おずおずと切り出すと、衛士はカップを持ったまま目を丸くしていた。

『え、ちょっと待って。今、その質問?』

 珍しく焦った口調に私は後悔する。やはりプライベートなことを聞きすぎただろうか。

『あ、あの。質問に答えなくてもいいです。本をお貸りできるならマンションの近くまで取りに行きますから』

 私は慌ててつけたす。今まで頭が回らなかったが、もしも彼女がいるのなら本を見せてもらうためとはいえ、家に行くのは遠慮すべきだ。

『そうじゃなくて』

 しかし私の心の内を読んだかのようなタイミングで彼が否定する。

『恋人がいたら、こんなふうに誘って、ふたりで会ったりしてないよ』

 真面目なトーンで返され、なんだか私は恥ずかしくなった。それもそうだ。でも、私たちの関係にはっきりした名前はないし、友人といってもおかしくない付き合いと言えばそれまでで……。
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