極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 どうして私はこういう男女間の機微に疎いんだろう。うつむき気味にたどたどしく言い訳する。

『そ、そうですね。でも高野さん、素敵な方なので……』

 優しくて博識で、会話も楽しく見た目も文句なし。年上の余裕がある一方で偉ぶるわけでもなく、身につけているものや雰囲気からそれなりの家柄なのもうかがえて、女性の扱いも慣れている。

 恋人がいないほうが信じられない。

『恋人はいないけれど好きな相手はいるんだ』

 唐突な彼の回答に、私は目を白黒させる。衛士はわざとらしくため息をついた。

『話も合うし可愛らしくて、デートに誘って、何度かふたりで会っているものの、どうやらまったく異性として意識されていないらしい』

『えっと……』

 彼の言いたいことをなんとなく汲んでみるが、確信が持てない。なにより私にとって都合がよすぎる考えだ。

 衛士は真剣な面持ちで私を見据えてきた。 

『俺は気軽に女性を家に誘ったりしない。未亜が好きなんだ。俺と付き合ってほしい』

 正直、告白された経験は何度かある。けれど、ここまで心が揺す振られたことはなかった。嬉しくて信じられないのも。

『……はい』

 初めての気持ちに戸惑って、そう答えるのが精いっぱいだった。

 衛士の優しい笑顔にますますなにも言えなくなる。嬉しくて幸せなのに、なんて伝えたらいいのかわからない。

 これからは名前で呼んでほしいと言われ、私は年上の彼を衛士と呼ぶようになった。付き合い出したのだと実感して嬉しい反面、上手くいきすぎている気がして怖かった。
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