極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 懐柔させてなにか取引に利用しようとした? それとも、たんに帰国の間の暇つぶし? なにを企んでいたの?

 今までの衛士との付き合いが、一緒に過ごしてきた時間が、すべて疑心暗鬼になる。けれど彼の言い分を聞くのが怖かった。これ以上余計なことを知って傷つきたくない。

 なによりどう言い繕われても、衛士が名前を偽って杉井電産の社長の娘である私にわざわざ近づいたのは事実。それがすべてだ。

 まるで私が泣くのを隠すように空から雨が降ってくる。アスファルトの色を斑に変えたかと思ったら、次第に雨脚は強くなり辺りを一色に染め上げる。

 傘を持ってきておらず、全身びしょ濡れになる。衣服が肌に張りつき気持ち悪いし、水分を含んで重い。それでも私はひたすら足を動かす。

 この雨が全部、流してしまえばいい。衛士への想いも、彼との思い出も。

 その後私は風邪を引いて数日間、寝込むはめになった。衛士は幾度となく連絡をしてきたり、私に会うために接触を試みてきたが、私がすべて拒否して彼を避け続けた。

 さらにスマートホンを解約して電話番号ごと機種を新しくする。彼と残っているやりとりや写真など全部消したかった。

 衛士はアメリカに再び渡ったからなのか、私の前に現れなくなり、一方で私は体調を崩しがちになる。

 失恋の痛手なんて言ってられない。恋愛なんてもう二度としない。私も早く父のために、会社のために相手を見つけないと。

 ところが体の調子は優れないままで、まさか妊娠しているなんて思いもしなかった。
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