極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 はっと目が覚め、まだ夜中だと直感で気づく。隣で茉奈が規則正しい寝息を立てていて、うっすらと汗をかいている彼女の前髪を掻き上げた。

 陽子さんに今までの出来事を語り、昔のことを夢にまで見てしまった。

 今まで黙っていた私に対し、陽子さんは『よく話してくれたわね。ひとりで抱えてつらかったでしょう』と寄り添ってくれた。

 胸のつかえが少しだけとれて、私の膝の上に座り、お絵描きに夢中になっている茉奈をぎゅっと抱きしめた。改めて茉奈には衛士の面影がきちんとあると感じ、胸が締めつけられる。

『それで……未亜ちゃんは彼と……これからどうしたいの?』

 陽子さんの問いかけに私は答えられなかった。

 衛士は結婚していないの? したんじゃなかったの?

 てっきり別れた後すぐに父から聞いたとおり、結婚してアメリカに戻ったんだと思っていた。だから茉奈と会わせるどころか、彼に娘の存在を伝えるつもりもなかった。

 妊娠が判明したとき、不安で押し潰されそうになって、間違いであることさえ願ってしまった。気をつけていたつもりでも完璧な避妊など存在しない。

 でもお腹の中ですくすくと育つ命に愛しさが芽生えて、叔父夫婦に助けられ、今では茉奈のいない人生なんて考えられない。

 茉奈の存在を衛士に知られてしまった以上、彼とはなんらかの形で向き合わなければ。

 私はどうしたいの? 

 自問自答して、目の前の茉奈をじっと見つめる。

 はっきりと言えるのは、茉奈の幸せが私の一番の願いだ。そのためなら私はなんでもできる。

 母親ってすごいな。……お母さんもこんな気持ちでいてくれたのかな?

 私は再度眠りにつくためきつく目を閉じ、ざわつく心を無理矢理落ち着かせた。
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