極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 この口づけを私は知っている。甘くて優しい、私を蕩かせるキスだ。角度や触れ方を変え衛士は口づけを続けていく。受け入れることも拒むこともできない。

「俺が嫌いなら……嫌なら本気で抵抗してほしい」

 そんな私を見越してか、唇が触れるか触れないかギリギリの距離で吐息交じりに囁かれた。

 どこか不安そうな面持ちに気持ちが揺れる。

「嫌……じゃない」

 目線をあえて彼から外し、絞り出すように声を発して答えた。わずかな沈黙も怖くなり、わざと唇を尖らせる。

「だいたい、その前提はずるいよ」

『衛士を嫌ってもいないし、恨んでもいない』

 この前、本人に向かって伝えたはずだ。そもそもここまで強引に進めてから、尋ねるなんて。

 内心で悪態をついていると唇に乾いた感触がある。衛士が私の顎に手をかけ、彼の長い親指が私の下唇をなぞっていた。

「ずるくてかまわない。未亜が受け入れてくれるのなら……未亜を手に入れるためならなんだってする」

 意志の込められた眼差しを受け止めた瞬間、唇を押し当てられ、軽く舌で舐め取られる。これは衛士の癖なのか、ぎこちなく唇の力を抜くとキスは自然と深いものになる。

 彼に求められるときは、いつもこの流れだ。

『好き』

 キスの合間に溢れる想いを口にしたら、衛士は嬉しそうに目を細めていた。その顔も優しくて大好きで……。でも今は想いを言葉にできない。
< 53 / 186 >

この作品をシェア

pagetop