極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 慌てて隣に横になり、とんとんと軽く叩く。うっすら目を開けた茉奈だが、私の存在に安堵したのかしばらくするとまた夢の中へと旅立っていった。

 息さえ押し殺し、その場を静かに離れる。カーテンを開けると、衛士は帰る支度をしていた。立ち上がった彼にそっと近づく。

「茉奈、大丈夫か?」

「うん。たまにこうやって何度か起きちゃうんだよね」

 これでもまとまって寝てくれるようになった方だ。眠り続けるのも体力がいるらしく、前は数時間おきに起きていた。

「未亜は、本当に休みなしなんだな」

 衛士は複雑そうな顔でしみじみと呟いた。逆に私は明るく答える。

「しょうがないよ、母親だもん」

 諦めというより、前向きな嬉しさからだった。母親としての自信は正直あまりないし、迷うことばかりだ。けれど、こんなにも私を必要としてくれる茉奈が愛しくてたまらない。

「もしも出掛けるのがしんどいなら」

「そんなことない!」

 衛士の言わんとすることを察し、先に制する。思ったより大きい声になってしまい、急いで寝室をうかがうが茉奈が起きた気配はない。

 私はもう一度、衛士に向き直った。

「茉奈、喜ぶだろうし……私も久しぶりに水族館、行ってみたい」

 私の告白に衛士は目を丸くした後、柔らかく笑った。

「俺も楽しみにしている」

 その表情に胸が勝手に高鳴る。大好きだった……大好きな衛士の笑顔はあの頃から変わらない。

 私はまた彼に恋に落ちてもいいんだろうか。
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