極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 ところが衛士はなんとも言えない表情になる。

「茉奈と話すときはかまわないが、できれば未亜には変わらず名前で呼んでほしい」

「でも」

「茉奈の父親ではあるけれど、未亜にとっては一人の男でいたいんだ」

 彼の言い分に私は目をぱちくりさせる。衛士は言ってから急に目を背け、照れくさそうな顔になった。

「って、贅沢なことを言ってるな、俺は」

「ううん。ありがとう、衛士」

 私は笑顔で彼に答える。次に目線を衛士に抱っこされている茉奈に移した。

「茉奈、今日はお父さんも一緒に出かけようか」

「はい!」

 元気よく手を上げる茉奈を見て、私は一度まとめていた荷物を取りに行くためリビングに戻った。衛士に指示をして茉奈の靴を履かせてもらう。

 今日の彼はネイビーのサマーニットにモカ色のテーパードパンツとシンプルにまとめている。スーツ姿を見慣れていたので、なんだか新鮮だ。

 半袖からのぞくほどよく筋肉のついた二の腕にドキッとした。

 対する私はホワイトのトップスに淡いオレンジのカラーパンツという組み合わせでお洒落さはあまりない。

 茉奈を追いかけたり抱っこするのが前提で、どうしても動きやすさ重視になってしまう。

 でも今日はデートじゃなくて、家族でお出かけなんだし。

 茉奈は夏らしく向日葵が描かれたノースリーブのワンピースに、ズボンを履かせている。

 衛士と私服で出かけるのはそれこそ付き合っていたとき以来で、今は娘も一緒とはなんだかくすぐったい。
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