極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「休憩が必要なら遠慮なく言えよ」

「うん、ありがとう」

 衛士の気遣いに目を細めた。彼が茉奈を大事に思ってくれているのは間違いない。それで十分だ。

 その結論に至ったところで、頭に触れていた彼の手がゆっくりと下りて頬を滑っていく。焦らすような、確かめるような触れ方に胸がざわめく。

 信号が変わるタイミングで彼の手が離れ、温もりが余韻となって残った。なんでこんなにも名残惜しく感じるんだろう。

「茉奈、おとなしいな」

「うん。車に乗るのが好きみたいで、基本的に機嫌よくしてくれてるよ」

 話題を振られ答える。それからしばらく茉奈の話で盛り上がった。私も意識して茉奈が生まれてから今までの成長を話す。

 きっと衛士は自分の娘である茉奈のことを知りたいだろうから。

 水族館は予想通り多くの人で賑わっていた。チケットは先にインターネットで予約購入していたので、チケットカウンターに並ぶ必要はない。

「あっ!」

 入口に差し掛かり茉奈と手を繫いでいた私は、あることに気づいた。

「どうした?」

「ベビーカー忘れてきちゃった。貸し出ししてもらえるかな?」

 こういった施設なら貸し出し用があるかもしれない。首を動かし案内を探していると衛士から声がかかる。

「茉奈もだいぶ歩けるみたいだし必要ないんじゃないか?」

「うん。でも……」

 衛士の言い分は理解できる。茉奈は十分に歩けるし体力もある。それなら、もっと小さな子どもが使うべきだ。
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