極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
 ただ、私には不安に思っていることがあった。

「茉奈がどこかに行ったりしないか心配で……」

 茉奈は好奇心旺盛で自立心も強い。

 以前、茉奈と買い物に出かけた際に売り場がやけに混んでいて、ふと商品に気を取られた瞬間、茉奈はつないでいた私の手を振り切り人混みの中に走っていったのだ。

 幸いすぐに見つかったが、あのときは心臓が止まるかと思った。

 抱っこやカートに乗せてもすぐに下りると主張するし、手を繫いでいても必要ないと振り切ろうとする。自己主張は成長の証だ。でも、それで茉奈になにかあったら私の責任だ。

 それなら、多少嫌だとごねられてもこういう場ならベビーカーに乗せていた方がいい。

 私がしっかりしていないと。私しか茉奈を守れないんだから。

「今日は俺もいる」

 不意に私の説明を黙って聞いていた衛士が口を挟んだ。

「完璧にとは言えないが俺も茉奈を見るし、掴まえておく。だから未亜がひとりで抱えこまなくても大丈夫だ」

 そう言うと衛士は私と手を繫いでいた茉奈を手招きする。なんの迷いなく近づく茉奈を衛士はひょいっと抱き上げた。

 私よりも安定感があるからか視線が高くなるからか、茉奈は衛士の抱っこが大好きだ。

 機嫌よく笑う茉奈を見て、抱えていた不安が少しだけ軽くなった。

 全部抱えこまなくてもいいんだ。こうして衛士を頼って甘えてもいいのかな?

 気負っていたものをこんなふうに一緒に抱えてくれる人がいる。私はひとりじゃないんだ。
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