極秘出産でしたが、宿敵御曹司は愛したがりの溺甘旦那様でした
「未亜」

 続けて名前を呼ばれ、衛士に手を差し出される。彼は茉奈を余裕たっぷりに片手で抱っこしていた。

「わ、私はいいよ」

 思わず拒否すると衛士の表情がわずかに曇る。

「俺が繫ぎたいんだ」

 ぶっきらぼうに告げられ、飾り気のない素直な言い方に虚を衝かれる。

 続けて思わず噴き出しそうになり、私は自分の手を彼の手に重ねた。するとすぐに強く握られ、彼の方に引き寄せられる。

「茉奈だけじゃない。未亜のことも見て、掴まえておく」

 打って変わって真剣な声色だった。体温が一瞬で上昇し、それを知られないようにわざとおどけて返す。

「私は、勝手に走ってどこかに行ったりしないよ?」

 衛士はなにも言わないまま真面目な面持ちを崩さない。だから私もそれ以上、下手に誤魔化さず思いきって繫がれている彼の手を握り返した。力強くて大きい彼の手に安心する。

「行こうか。茉奈、お魚見るの楽しみだね」

「かなー」

 衛士に抱っこされている茉奈に話しかけると、嬉しそうに足をバタつかせて笑った。

 次に衛士と目が合う。今度は彼も微笑んでいて、その表情はやっぱり茉奈と似ている。見ると私の気持ちが温かくなるのも同じだ。

 このあとさらに混雑してくるだろうから、先に館内のレストランで昼食を済ませる流れになった。すでにレストランは多くの人で賑わっていたが席はまだ空いている。

 小さい子ども向けのメニューも豊富に用意されていて、茉奈にはお子様用のうどんを選んだ。
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