従兄聖也の歪んだ愛情
従兄聖也の歪んだ愛情
結婚式を終えてイブニングドレスを脱ぐときになっても、華はまだ彼を理解できないでいた。
「華ちゃん、どうしたの? まだドレスを着ていたい?」
腰のリボンを解く手を止めて、夫となった聖也が笑い交じりの声で言う。
昨日まで彼は華の従兄だった。恋人の時間もあったのだけれど、今日からは夫という名前に書き換わる。
振り向いて見上げれば、絵に描いたような好青年然とした彼がにこにこしながら立っている。背が高くて均整の取れた体つき、健康そうに日に焼けた肌、そこに華だけに注がれる甘いまなざしがある。
「でもだめ。疲れたでしょ? お風呂に入って、ベッドに入らないとね」
聖也は華の答えを待たずにリボンを解いて、そうするのが当然のように華の下着まで脱がしてしまった。
彼はいつものようにバスルームにも入って来て、鼻歌を歌いながらスポンジで華の体の隅々まで洗い始める。華を椅子に座らせて、髪を洗った後、肩から腰にスポンジを滑らせていって、ふと上目遣いで言う。
「華ちゃん、立って足を開いて?」
こんなこと、恋人同士はするの? いつだったか華が訊ねたとき、聖也は笑って聞き返した。
華ちゃん、誰かに同じことさせたの?
そう言ってそこを覗き込んだ聖也は、いつもの好青年然とした笑顔だった。
「きれいだなぁ、華ちゃん。いつ見てもきれい」
それは儀式のように、聖也は決まって華の体を流した後に隅々まで触ってマッサージする。足を持ち上げて根本にまで視線と手を走らせるのは、華の体に何かの痕跡がないのを確かめているようだった。
「き、今日からは……見なくても、いいでしょう?」
不規則な呼吸をもらしながら、華は抗議する。
「夫婦になったんだもの」
「そっか」
聖也はうれしそうにうなずいて、華の足を愛おしそうになでた。
「今日からはいつでも見られるんだ」
華の抗議はおそらく伝わっていなくて、それから続いた聖也のマッサージはいつもよりなお念入りだった。
お風呂から出ると、聖也は華の体をバスタオルで拭ってベッドに入れた。
「今日は疲れたね。華ちゃんはドレスなんて着なくてもきれいなのに、いっぱい着替えて大変だったね」
聖也は華の隣に寝そべると、子どもを寝かしつけるようにゆっくりと背を撫でる。
「まだ寝たくない。準備しないと」
明日からは新婚旅行の予定もしているのに、彼はまるでそのまま寝付きそうな様子だった。
聖也は気楽に頬を緩めて、たぶん彼の中では決まっている予定を告げた。
「旅行なんていつでもできるよ。疲れてるのに、華ちゃんが風邪でも引いたら大変。今日はもうおやすみ」
「……本当に」
ふいに華の中にこみ上げたのは、震えるような疑問だった。
「私で……私が奥さんで、よかったの? 私は……ずっと子どもの体なんだよ」
華は二十代の後半になっても生理が来ない。たぶんこれからも来ないだろうと、医者に言われた。
二人で医者に行った帰り、華は聖也に別れを切り出した。病弱な私を、ずっと大切にしてくれてありがとう。聖也には未来を作っていける人と一緒になってほしいな。
「……俺を捨てないで」
でも聖也はそう言うと、彼が常にしている笑顔を一瞬で泣き顔に変えてしまう。
「可愛い、可愛い、指から食べちゃいたいくらいに可愛い華ちゃん。何が欲しい? 何でもあげる。何でもするから俺だけは捨てないで」
きっと彼の従妹に生まれてしまったときから、何か食い違ってしまったのだと思う。仲がいいのはいいことだと子ども心に信じたまま、いつも一緒に、ずっと一緒にと、距離感さえ忘れて近づいてしまった結果なのだろう。
「聖也、泣かないで。ごめんね、言っちゃいけないこと言ったよ」
ぐすぐすと泣きじゃくる聖也の頭を抱えて、子どもみたいに二人で体を丸める。
「好き。華ちゃん、好き」
「うん……」
二人くっついて、丸まったまま額を合わせる。
華はまだ、この子どもみたいに純粋な人のことを理解しきれていない。
「聖也が好き」
でもそれだけの気持ちは彼と一緒にぎゅっと抱きしめて、今日も眠りにつく。
「華ちゃん、どうしたの? まだドレスを着ていたい?」
腰のリボンを解く手を止めて、夫となった聖也が笑い交じりの声で言う。
昨日まで彼は華の従兄だった。恋人の時間もあったのだけれど、今日からは夫という名前に書き換わる。
振り向いて見上げれば、絵に描いたような好青年然とした彼がにこにこしながら立っている。背が高くて均整の取れた体つき、健康そうに日に焼けた肌、そこに華だけに注がれる甘いまなざしがある。
「でもだめ。疲れたでしょ? お風呂に入って、ベッドに入らないとね」
聖也は華の答えを待たずにリボンを解いて、そうするのが当然のように華の下着まで脱がしてしまった。
彼はいつものようにバスルームにも入って来て、鼻歌を歌いながらスポンジで華の体の隅々まで洗い始める。華を椅子に座らせて、髪を洗った後、肩から腰にスポンジを滑らせていって、ふと上目遣いで言う。
「華ちゃん、立って足を開いて?」
こんなこと、恋人同士はするの? いつだったか華が訊ねたとき、聖也は笑って聞き返した。
華ちゃん、誰かに同じことさせたの?
そう言ってそこを覗き込んだ聖也は、いつもの好青年然とした笑顔だった。
「きれいだなぁ、華ちゃん。いつ見てもきれい」
それは儀式のように、聖也は決まって華の体を流した後に隅々まで触ってマッサージする。足を持ち上げて根本にまで視線と手を走らせるのは、華の体に何かの痕跡がないのを確かめているようだった。
「き、今日からは……見なくても、いいでしょう?」
不規則な呼吸をもらしながら、華は抗議する。
「夫婦になったんだもの」
「そっか」
聖也はうれしそうにうなずいて、華の足を愛おしそうになでた。
「今日からはいつでも見られるんだ」
華の抗議はおそらく伝わっていなくて、それから続いた聖也のマッサージはいつもよりなお念入りだった。
お風呂から出ると、聖也は華の体をバスタオルで拭ってベッドに入れた。
「今日は疲れたね。華ちゃんはドレスなんて着なくてもきれいなのに、いっぱい着替えて大変だったね」
聖也は華の隣に寝そべると、子どもを寝かしつけるようにゆっくりと背を撫でる。
「まだ寝たくない。準備しないと」
明日からは新婚旅行の予定もしているのに、彼はまるでそのまま寝付きそうな様子だった。
聖也は気楽に頬を緩めて、たぶん彼の中では決まっている予定を告げた。
「旅行なんていつでもできるよ。疲れてるのに、華ちゃんが風邪でも引いたら大変。今日はもうおやすみ」
「……本当に」
ふいに華の中にこみ上げたのは、震えるような疑問だった。
「私で……私が奥さんで、よかったの? 私は……ずっと子どもの体なんだよ」
華は二十代の後半になっても生理が来ない。たぶんこれからも来ないだろうと、医者に言われた。
二人で医者に行った帰り、華は聖也に別れを切り出した。病弱な私を、ずっと大切にしてくれてありがとう。聖也には未来を作っていける人と一緒になってほしいな。
「……俺を捨てないで」
でも聖也はそう言うと、彼が常にしている笑顔を一瞬で泣き顔に変えてしまう。
「可愛い、可愛い、指から食べちゃいたいくらいに可愛い華ちゃん。何が欲しい? 何でもあげる。何でもするから俺だけは捨てないで」
きっと彼の従妹に生まれてしまったときから、何か食い違ってしまったのだと思う。仲がいいのはいいことだと子ども心に信じたまま、いつも一緒に、ずっと一緒にと、距離感さえ忘れて近づいてしまった結果なのだろう。
「聖也、泣かないで。ごめんね、言っちゃいけないこと言ったよ」
ぐすぐすと泣きじゃくる聖也の頭を抱えて、子どもみたいに二人で体を丸める。
「好き。華ちゃん、好き」
「うん……」
二人くっついて、丸まったまま額を合わせる。
華はまだ、この子どもみたいに純粋な人のことを理解しきれていない。
「聖也が好き」
でもそれだけの気持ちは彼と一緒にぎゅっと抱きしめて、今日も眠りにつく。