ボレロ
僕がその子と出会ったのは、春も近い三月の末の頃だった。僕は、叔父が残してくれた伊豆のアトリエで何時の様に売れない絵を描いていた。主にこの辺の海岸を描く事が僕の仕事の様になっていた日々の中で、たまに人通りの多い町に出て、似顔絵のアルバイト見たいな事もやっていたが、所詮、もともと人物画が好きでは無いためか、大した商売にもならずコーヒー代位で終わっていた。叔父の影響で、この道に入り、芸大の時には幾つかの賞も取って、有る意味将来を期待された学生として過ごしていた。そんな傲り(慢心)も有ってか、プロの画家を目指してしまった事がそもそもの間違いだったのだろう。僕の絵は、卒業後数年経った時点でも、画壇で評価される事なく、師匠として仰いだスペインの先生パブロ・ジャバネールからも最近は見放されている始末だった。そろそろ、この先の事を真剣に考えなくてはならない時期に来ている事を感じながら、何時も様に、白砂の海岸を画いていた時、キャンバスの中の白い海岸線と少し青味が戻ってきた海の間で、黄色い物を見つけた。
「こんな所に、色を置いた覚え無いけどな。」独り言を言いながら、少し白波が立つ海に目をやった。この時期。気の早いサーファーが時折やって来て、彼らは大抵黒ぽいウエットスーツを着ているが、最近ではたまにカラフルなスーツを着ている事もあった。この日も数人のサーファーが波間に見え隠れしていたが、黄色いスーツを着ている様子は無かった。
「こんな所に、色を置いた覚え無いけどな。」独り言を言いながら、少し白波が立つ海に目をやった。この時期。気の早いサーファーが時折やって来て、彼らは大抵黒ぽいウエットスーツを着ているが、最近ではたまにカラフルなスーツを着ている事もあった。この日も数人のサーファーが波間に見え隠れしていたが、黄色いスーツを着ている様子は無かった。
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