路地裏Blue Night.
ぎゅっと思わず閉じてしまった目は、ふわっと頬に重ねられた手によって反射的にも開いてしまう。
「さっ…ちゃん…?」
いつものように“さっちゃん”って呼んでいれば自分を落ち着けてくれるんじゃないかって、何度も呼んだけど。
2人しかいない、しずかで広すぎるマンションには逆効果。
反射して私に返ってきてしまうくらい、だめ。
「…やだな、この匂い」
「え…、」
「僕のに変えていい?」
微かに開いてアホな顔をしているだろう私の唇に、彼は妖艶に甘美に長い指で触れてくる。
こんなふうに丁寧に説明させてしまったことも恥ずかしいし、息を飲む音だって聞こえちゃわないか不安。
「澪、」
「っ…!まって、さっちゃん、えと…あの、」
そんなはっきり名前を呼ばれるなんて。
それはだめだよさっちゃん。
だめ、そんなのぜったいだめ。
だってそれって……キスのこと…言ってる…?
カップルとか夫婦とか、好きな人とか、唇は絶対そういう意味がある。
「…ミオ?」
「っ…、」
どうしよう、言葉にならない…。
言葉ってうまく出すことが出来なくなるんだ、こーいうときって。